研究背景:植物の液胞膜と細胞質膜の物質輸送装置



 目次

は細胞ダイナミクス研究室で実際に研究対象としている膜輸送体です。
1.はじめに

 生体膜は細胞を外部環境と区切り、細胞内を物理的に区画化する役割をもつ。膜を通して必要な物質を取込み、物質を排出・分泌したりもする。さらに、膜はエネルギーと情報の変換をおこなう場でもある。生体膜の機能を支えているのは、特異的な物質輸送系あるいは情報因子応答の透過系である。したがって、細胞の特性やオルガネラの特異性も、その膜にどのような輸送系が存在するかによって規定される部分が大きい。細胞には多様なオルガネラが存在し、それぞれの膜に固有の輸送系がある。ここでは当研究室で研究を行っている植物の液胞膜と細胞質膜を中心に物質輸送システムを個別に紹介する。

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2.生体膜輸送の機構と分類

 輸送系を個別にみる前に、基本的な概念を簡単に述べる。生体膜は大きな分子、電荷をもった分子に対しては透過性が低く、電荷をもたない小さな分子は比較的自由に透過し得る。水分子とNa+はいずれも半径0.1nmの小さな物質であるが、膜透過係数は著しく異なる。たとえば卵黄リン脂質で構成される膜での水の透過係数は2x10-4cm/sec、Na+は1x10-14cm/secである。Na+の値から計算すると、膜の両側に1Mの濃度差がある場合でも、面積100mm2当たり1秒間に6個のNa+しか透過しない。同様にH+やアミノ酸の透過性もきわめて低い。生体膜にはこれらを積極的に輸送するシステムが備わっている。

 膜輸送を大別すれば促進拡散と能動輸送になり、機能を担う分子からみればチャネルと輸送体に分類できる。促進拡散を担う輸送体もあれば能動輸送を担う輸送体もある。チャネルの場合も同様である。チャネルは膜に孔を構築し、膜内外の物質濃度の差あるいは電位差に応じて分子を運ぶ。チャネルには透過孔だけでなく、分子の識別装置やゲート、リガンド結合部位、電位感受部位など高次の機能構造がある。チャネルは輸送体と異なり、分子やイオンを輸送するための構造変化や分子移動がない。そのためチャネルでは高速のイオン透過がみられる。この特性により、たとえばCa2+チャネルは瞬時に細胞質Ca2+濃度を上昇させることができる。

 細胞、オルガネラは、その中に物質を高濃度に集積することが多い。これらの膜には能動輸送系が存在し、上り坂勾配の輸送が行われる。この反応では、形成される溶質の電気化学ポテンシャル差に等しいか、それ以上の自由エネルギーの供給が行われる。エネルギーの供給形態ノより一次性能動輸送と二次性能動輸送に分類される。一次性能動輸送はATP、酸化還元、光をエネルギー供与体とする。H+-ATPase、Ca2+-ATPase、薬剤輸送型ATPasaeなどはATPを利用し、ロドプシンは光のエネルギーを利用する。ミトコンドリア電子伝達系では、酸化還元反応と共役オて各複合体がH+を輸送する。一次性能動輸送体をポンプともよぶ。

 一方、二次性能動輸送は、膜内外に形成されたH+やNa+の濃度差を共役エネルギーとして利用する。無機イオンの輸送系のように膜の電位差(膜ポテンシャル)を利用するものもある。いずれも一次性能動輸送によって与えられる駆動力を利用する。糖/H+共輸送、Na+/H+対向輸送などその種類は多い。

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3.液胞膜物質輸送系

 3.1 液胞膜物質輸送系の特色

 無機イオンや代謝産物の集積は、液胞の重要な機能である。液胞内のイオン濃度を表2に例示した29)-31)。一般に個々の物質の液胞内濃度は細胞質の値よりも高い。液胞膜には能動輸送システムが備わっている。液胞への物質輸送は、細胞にとって余分となる量を一時的あるいは長期に貯蔵する意味合いが強く、Kmなどは細胞質での必要量を確保できる値に設定されている。液胞は細胞体積を大きく保つ役割のみでなく、栄養成分のプールとしても機能している。

 多様な能動輸送系を支えるために2種類のプロトンポンプ、すなわちH+-ATPaseとH+-ピロホスファターゼ(H+-PPase)が存在する。液胞膜にはプロトンポンプに支えられた二次能動輸送系やイオンチャネルが存在する。


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 3.2 液胞膜H+-ATPase ★

 液胞膜H+-ATPaseは液胞内を酸性(pH5-5.5)に維持し、膜に電気化学ポテンシャル差(液胞内プラス)を与える。液胞型ATPase(V型ATPase)は、植物のみでなく動物の酸性オルガネラの膜にも存在し、さらに破骨細胞や腎臓細胞の細胞質膜に存在する。植物では、液胞の特殊形態であるタンパク質顆粒(種子の形成、発芽時)の膜、ER、ゴルジ、被覆小胞の膜にもV型H+-ATPaseが見出されている。

 液胞膜H+-ATPaseは、8-11種のサブユニットで構成される複合酵素である32)。たとえばヤエナリ酵素は9種のサブユニット(68, 57, 44, 38, 37, 32, 16, 13, 12kD)をもつ33)。V型ATPaseの高次構造はF型ATPaseに似ている34)ことから、球形の触媒部位と首にあたる部位を合わせてV1と呼び、膜中のH+通路をVoと呼んでいる。触媒部位V1は主とし約70kDと60kDのサブユニットで構成され、Voは16kDサブユニットが構築している35)。主要なサブユニットにつていは、cDNAがとられ一次構造が明らかにされた。16kDサブユニットはF型ATPaseのcサブユニット(8kD)と相同性が高く、cサブユニット遺伝子の重複によって生じたと考えられている36)。70kDと60kDサブユニットは、それぞれF型ATPaseのaとbサブユニットに相同である37)。V型ATPaseはF型ATPaseの後に進化・出現したと推定されている。

 酵素はATPあたり2から3個のH+を液胞内へ輸送する。ATPとH+の比は細胞質と液胞の間のpH勾配の大きさに依存する。pH勾配が2ユニット以下、すなわちH+の濃度差が100倍以下であればATPあたり3H+を輸送すると報告されている38)。分類上の特徴は阻害剤に対する感受性にあり、V型ATPase特異的位阻害剤はバフィロマイシンである。


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 3.3 H+-ピロホスファターゼ (H+-PPase) ★

 植物の液胞膜小胞の懸濁液に無機ピロリン酸*14を加えると小胞内へH+が輸送される39)。同一液胞膜上にH+-ATPaseとH+-PPaseが共存することは、パッチクランプ法*15を応用してHedrichらにより確認された40)。同じ1989年には単分子としての酵素が精製・同定された41)。

 H+-ATPaseがATPあたり2ないし3つのH+を輸送するのに対して、H+-PPaseはPPiあたりH+1つを輸送する。基質のもつエネルギーはATPと同程度であるので、理論的にはH+-PPaseはH+-ATPaseよりも大きなpH勾配を形成し得る。実際の組織でのH+-PPaseの活性や量をみると、H+-ATPaseよりも高い場合が多く、液胞酸性化における生理的貢献度は高い。パッチクランプ法での解析から、ビートのH+-PPaseがH+とともにK+を液胞へ運び入れると報告されている42)。孔辺細胞であれば液胞へのK+の集積は大きな意味をもつが、貯蔵器官の液胞がK+をH+-PPaseによって輸送する生理学的意義、他のK+輸送系との役割分担など不明な点がある。なお精製酵素標品の再構成系では、K+は輸送されない43)。

 液胞膜H+-PPaseは、73kDの単一ポリペプチドで構成される41)。このことは精製標品のリポソームへの再構成実験によっても確認されている43)。基質であるPPiは最も単純な高エネルギーリン酸化合物であり、細胞でのRNAやタンパク質の合成の過程で副産物として供給される。酵素と基質の単純さは構造-機能相関の解明にとっての大きな利点である。エネルギー変換酵素として魅力的なモデル分子でもある。

 これまでに、シロイヌナズナ39)やオオムギ44)、ヤエナリ45)などからcDNAが得られ一次構造が明らかにされた。構造中には12-13個の膜貫通領域の他、細胞質型PPaseの触媒部位との共通配列、H+輸送の阻害剤DCCDの結合部位共通配列なども確認された39)44)。73kDタンパク質が基ソ分解とH+輸送の両方の機能を担っていることが一次構造としても確認された。

 液胞膜H+-PPaseは、被子植物、裸子植物、シダ類、コケ類、カサノリに存在し、酵素活性とともに、ヤエナリ酵素の抗体と反応する72-74kDタンパク質が検出されている46)。緑色植物に普遍的な酵素と推定される。植物以外では、光合成細菌Rh. rubrumの色素胞膜に存在する47)48)BH+-PPaseは植物の進化を探る貴重な指標でもある。

 H+-PPaseは代謝活動の活発な組織で多く発現している49)。たとえば、種子実生の胚軸、生長中のダイコン根50)、発芽時の胚乳や子葉51)などである。これらの組織でも、成長がとまり成熟期に達すると酵素量は減少する。これは生理的に合理的で、基質が十分供給されない状況になると機能上の役割も小さくなり、酵素の量も減少すると考えられる。

 酵母の液胞や動物の酸性オルガネラにH+-ATPaseは存在するが、H+-PPaseはない。植物はなぜ2種類のプロトンポンプをもつのか?H+-PPaseが必要な理由として次の3つをあげることができる。_H+-PPaseがなければ、液胞膜H+-ATPaseが大きな液胞を酸性化するために、大量のATPを消費することになる。H+-PPaseの作動はエネルギー通貨ATPを節約する。_高分子合成で生じたPPiは、これが蓄積されれば合成反応を阻害する。不要なPPiをH+-PPiがエネルギー源として利用し、PPiを消去する。他の生物では細胞質PPaseがPPiを加水分解する。_H+-ATPaseは低温下で不安定であり、硝酸イオンで阻害される32)。一方H+-PPaseはCa2+によって強く阻害される52)。物理化学的ストレスに対して、2つの酵素は異なった感受性を示す。異常状態でも、2つのポンプが相互に補完しつつ液胞の酸性度と機能を維持する。興味深いことに、低温下あるは嫌気状態ノおかれた植物ではH+-ATPase活性は低下するが、H+-PPase活性は増大すると報告されている。これも両者の補完関係の1例と考えられる。


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 3.4 Ca2+/H+対向輸送体 ★

 液胞内のCa2+濃度は数mMであり、細胞質(150nM)に対して1万倍以上の濃度差が生じている。液胞のCa2+能動輸送ではCa2+/H+対向輸送体が主役を演じている32)53)。どの植物にもCa2+/H+対向輸送の強い活性がみられる。対向輸送体は液胞膜pH勾配を利用し、H+を放出してCa2+を液胞にくみ上げる(H+:Ca2+=3:1)。H+-ATPase、H+-PPaseいずれのポンプであってもCa2+/H+対向輸送体を駆動する。Ca2+/H+対向輸送体は酵母にもある。

 液胞は細胞容積の80-90%を占め、液胞内Ca2+の量はERや細胞壁区画と比べてはるかに多い。しかしCa2+/H+対向輸送体のCa2+に対するKm(10-20mM)を考慮すると、この輸送体に細胞質Ca2+濃度を1mM以下にする機能を期待することは難しい。では、対向輸送体の役割は何か?次のように説明される。Ca2+/H+対向輸送体によって細胞Ca2+の大部分を液胞へ集積して細胞質濃度をmMレベルに引き下げる。残りわずかのCa2+を高親和性のCa2+-ATPaseがER内へ輸送することにより、細胞質Ca2+は150nMへ低下する。通常の細胞質には対向輸送体のKmにみあう濃度のCa2+はなく、全活性を常に発揮しているわけではない。Ca2+の情報伝達イオンとしての役割を考えると、異常時に備え対向輸送体が待機しているとみても不合理ではない。

 最近、Ca2+/H+対向輸送体ではなく、液胞膜Ca2+-ATPaseの存在を示す報告54)、あるいはCa2+/H+対向輸送体は生理的条件下ではCa2+でなくMg2+を優先的に運び入れるとする議論もある55)。


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 3.5 Ca2+チャネル

 Ca2+プールである液胞からは、チャネルを介して細胞質にCa2+が放出される。液胞膜には、電位依存性およびリガンド(イノシトール三リン酸*16、InsP3) 依存性のCa2+チャネルが存在する56)-58)。InsP3の添加が液胞からのCa2+の放出を引き起こすことは、液胞膜小胞を用いた生化学的測定、パッチクランプ法測定により示された。また、膜電位が生理的レベルで上昇(液胞内プラス)した場合に開く電位依存性チャネルの存在も確認されている。さらに、サイクリックADPリボース(cADPR)依存性のCa2+チャネルも存在するようである59)。3種類のチャネルは同一液E膜に共存するが、これらの機能分担と相互連絡、そして分子の同定が課題として残されている。なお、孔辺細胞では液胞がCa2+濃度調節のためのCa2+プールとなっているが、細胞壁区画、ER、核あるいは葉緑体、プラスチドが主要な供給源となる例もある。


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 3.6 Na+/H+対向輸送

 植物の耐塩性機構は重要な研究対象であり、浸透圧調節物質としてのベタインの研究が大きく進展している。他方、細胞内のNa+はNa+/H+対向輸送(Na+:H+=1:1)によって液胞内へ能動的に集積することが明らかにされており60)、耐塩性機構との関連で興味がもたれている。ビートやIオムギを塩存在下で育てると輸送活性が上昇する。対向輸送の阻害剤アミロライドを用いた実験から、170kDタンパク質がNa+/H+対向輸送体として発表された61)。しかし、Na+輸送の測定は行われておらず、その後も機能測定に関する報告はない。大腸菌(38kD)あるいは動物細胞(約70kD)の対向輸送体とサイズが大きく異なり、植物の輸送体が分子として確定するのはもう少し先になりそうである。なお、細菌や動物細胞にもNa+/H+対向輸送体が存在し、生体のNa+とH+のサーキュレーションを司る重要な要素となっている62)。


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 3.7 糖輸送体

 ビートや果実では、光合成産物としてのスクロースやグルコース、ソルビトールを液胞に高濃度蓄える6)。リンゴ果実では液胞での糖濃度900mMと報告されている。師部ローディングでは細胞質膜の糖/H+共輸送体が作動するが、液胞では糖/H+対向輸送によって能動輸送される63)-65)。液胞への能動輸送により細胞質糖濃度を下げることが、シンク器官での師部アンローディングを促進すると考えられる。ビートでは65kDのタンパク質が対向輸送機能をもつと報告されている66)。高純度精製標品での再構成実験、cDNAでの一次構造解析が待たれる。


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 3.8 リンゴ酸輸送

 CAM(crassulacean acid metabolism)植物は、夜間に合成される多量のリンゴ酸を液胞に集積し(350mM)、日中これをデンプン合成の原料として細胞質に放出する。リンゴ酸輸送チャネルは植物に特徴的で、光合成の鍵酵素の1つである67)68)。機能の測定からKmは2-3mM、膜電位にヒ存した輸送であることが明らかにされている。リンゴ酸は、液胞の膜電位を駆動力として能動輸送される。輸送体は、リンゴ酸に限らずクエン酸も輸送すること、SH試薬などで阻害されること、また液胞への集積と液胞からの放出は異なったチャネルが分担していることが明らかになっている。チャネル分子は同定されていない。


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4.細胞質膜の輸送系

 4.1 細胞質膜H+-ATPase

 植物には細胞質膜H+-ATPase、葉緑体ATPase、ミトコンドリアATPase、液胞膜H+-ATPaseの4種類のH+-ATPaseが存在する(表1)。このうち葉緑体とミトコンドリアのATPaseはATP合成酵素としてはたらき、FoF1-ATPase(F型ATPase*6)と呼ばれる。細胞質膜H+-ATPase(P型ATPase*7)と次項フ液胞膜H+-ATPase(V型ATPase)は、ATPを加水分解しH+の輸送酵素として機能する。

 細胞質膜H+-ATPaseが最初に精製されたのは、含量の多い酵母やカビの膜からである1)。その後、高等植物からも精製され、また多数の植物種からcDNAが得られ、一次構造と生化学的な性質が明らかにされた2)。なお、これ以前に、植物細胞の伸長現象を解析していた生理化学者によって、細胞の酸成長説*8の最も重要な要素としてプロトン(H+)ポンプの存在が提唱されていた3)。

 細胞質膜H+-ATPaseの生理機能として次の3点を強調したい。_膜内外にpH勾配を形成し、糖、イオンなどの能動輸送系に駆動力を与える。_細胞壁区画を酸性化し、壁の構造をゆるやかにして細胞壁に伸展性を与える。_細胞質が酸性化した場合には、至適pHを酸性側にもつH+-ATPaseが作動してH+を排出し細胞質pHを中性に維持する。

 細胞質膜H+-ATPaseは約100kDのポリペプチドで構成され、ATP1分子当たり1つのH+を細胞外に能動輸送する。その結果、細胞壁区画はpH5-6と酸性化される。H+-ATPaseは-400mVの膜ポテンシャル(細胞内負)を形成し得る4)。酵素中のアスパラギン残基が酵素反応にともないリン酸化・脱リン酸化される。これとは別に活性の調節という意味でのリン酸化も起こる1)2)。酵母の細胞質膜H+-ATPaseでは、培地にグルコースを添加するとこの酵素がリン酸化され活性化される。

 酵母、カビではH+-ATPaseが細胞質膜タンパク質量の30%を占めるのに対し、植物では細胞質膜の約1%、細胞全タンパク質の0.03%程度である。カラスムギ根の精製H+-ATPaseの比活性は約200ユニットmg-1であり、分子活性は300sec-1と推定される2)。プロトンポンプの中では高い値で る。

 細胞質膜H+-ATPasとして、シロイヌナズナから10種(AHA1-10、Arabidopsis H+-ATPase)のクローンが同定された2)。タバコ、トマト、イネからも単離されている。基本的な分子構造はCa2+-ATPaseや動物のNa+/K+-ATPaseと類似しており、H+チャネル、ATP結合・加水分解、機能調節の各部位が含まれる。遺伝子いくつかは組織特異的に発現している2)5)。シロイヌナズナを例にとれば、AHA3は師部で、AHA2は根毛、AHA9は葯、AHA10は種子で発現する。くわしくみると組織により細胞質膜の輸送機能に特色があり、その生理機能に対応した遺伝子が発現すると考えられトいる。主な輸送物質は、根毛では無機イオン、師部伴細胞ではスクロース、種子形成時の子葉では糖やアミノ酸が取り込まれる。また、葯では急速な花粉管成長がみられ、酸成長説にもとづけばH+-ATPaseの役割は重要である。

 一般に、複数の遺伝子とアイソフォームの存在は、酵素そのもの(触媒機能)の特異性と、各細胞の生理学的需要に呼応した空間的、時間的な発現特異性(プロモーター機能)の両面で解析されている。H+-ATPaseに関しては上述の発現特異性に加え、酵素学的性質の特徴についても検討されつつある。


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 4.2 スクロース/H+共輸送体

 細胞質膜にスクロースの能動輸送系が存在することは、単離膜小胞での輸送活性の測定によっても示されている。光合成産物として多量に供給される葉のスクロースは、葉脈の師管に輸送され、茎、根、種子、貯蔵器官、若い葉に送り出される6)。したがって、糖輸送に関連して、植物には主に2つの現象がある。_葉肉細胞で合成されたスクロースが師管に輸送される機構、すなわち師部ローディングの過程。師部のスクロース濃度は800-1000mMと報告されており、葉肉細胞内の濃度より数倍高い。したがって能動輸送系が存在する。_茎や根などのシンク器ッに到達したスクロースが細胞内に取り込まれる過程である。2つの部位では異なった分子機構により輸送されると考えられている。

 師部ローディングでは、葉肉細胞で合成されたスクロースが細胞壁区画(アポプラスト*10)に運び出される(促進拡散)。次にアポプラストのスクロースは、伴細胞*11へ能動的に取り込まれる。すなわち、細胞質膜H+-ATPaseが形成するH+勾配を利用して、H+とスクロースが共輸送される。伴細胞と師管はシンプラスト*12として連続しており、伴細胞からシンプラスト輸送される。つまり伴細胞はスクロースの濃縮装置であり、アポプラスト輸送とシンプラスト輸送の切換え装置といえる。ソラマメの葉の師部伴細胞では、H+-ATPaseはスクロースの能動輸送が活ュな葉肉細胞側に多く、シンプラスト輸送をする師部側には少ない7)。このように、スクロース/H+共輸送体とH+-ATPaseが協調して作動している。スクロースの能動輸送にはATPが消費されることになるが、細胞内に移行したスクロースからは1分子当たり70以上のATPが生産されるのでA1、2個のATPは回収可能な投資といえる。なお、伴細胞の糖濃縮機能は、動物小腸の上皮細胞に似ている。

 一方、シンク細胞でのスクロースの取込みは、濃度の高い師部から受動的に行われると考えられる。細胞壁画分のインベルターゼにより単糖に分割されてから入るとする説もあるが、これに対して、植物組織での細胞壁インベルターゼ活性はきわめて低いとの報告もある。果実細胞のように高濃度に糖を蓄積する細胞ではスクロース/H+共輸送体が関与していると考えられる。

 次に、スクロース/H+共輸送の分子装置にに話題を移す。共輸送体は疎水性の高いタンパク質で、12の膜貫通ドメインをもっている8)。アミノ酸配列の相同性は植物種間で65%以上である。cDNAからは分子サイズ54kDと推定されるが、電気泳動上では約45kDとして挙動する。これは疎水ォタンパク質にしばしば見られる現象である。

 スクロース/H+共輸送体として複数のcDNAが単離されている8)-12)。その1つSUT1(sucrose transporter)は、ジャガイモの未熟葉で少なく、成熟葉で多く発現している9)。さらに、SUT1がジャガイモの小葉脈に特異的に発現していることも示された。この結果は、SUT1がスクロースの師部ローディングに関与する分子種であることを示している。葉脈の発達したオオバコ葉からも師部特異的なスクロース/H+共輸送体cDNAが得られている10)。SUT1のアンチセンスDNAをCaMV35Sプロモーターに連結してジャガイモで発現させると、葉における可溶性の糖含量は20倍以上Aデンプン蓄積量も5倍に上昇した11)。これは、スクロース/H+共輸送体であるSUT1の発現量の減少により、葉肉細胞から糖が搬出されずに蓄積したためと解釈される。通常の葉肉細胞内スクロース濃度は40mM程度であるが、この形質転換植物ではヘキソース濃度が1500mM、スクロースェ400mMと桁違いに増加している。同様の結果は、rolCプロモーターを利用して師部特異的にSUT1のアンチセンスDNAを導入発現させた場合にも観察された。


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 4.3 単糖輸送体

 グルコース、フルクトースなどの単糖は、ショ糖などの二糖と区別され、異なった分子によって輸送される。クロレラのグルコース/H+共輸送体はHUP1 (hexose uptake protein、アミノ酸534個、60kD)として単離された13)。HUP1の類似遺伝子(STP、sugar transporter)がシロイヌナYナから4種同定された。HUP1に対応するのはSTP1である13)。両者のアミノ酸は47.1%が一致し、68%の類似性がみられた。構造の保存性は比較的高い。タバコからもcDNAが得られている14)。輸送体はヘキソースやペントースを細胞外のH+とともに細胞内へ輸送する。cDNAとして得られスものを、酵母で発現させてKmを測定すると、多くの場合0.4-1.5mMの範囲の値が得られる。これは植物の膜を用いて得られる値6)とも一致し、生理的にも妥当である。

 単糖輸送体とスクロース/H+共輸送体は、輸送する糖の選択性において異なり、一次構造にも差がみられる。たとえば、SUC1(スクロース)とHUP1(グルコース)のアミノ酸配列の一致は20%、類似性は50%である。両者の一次構造は異なるが、分子サイズが60kD前後で、12個の膜貫通領域をもつなど基本構造は似ている15)。

 動物の例を述べると、グルコース輸送体(多くは促進輸送系)のアイソフォームが数多く存在し、赤血球、肝臓、脳、小腸等で特異的に発現している。いずれも54-58kD、植物のHUPともアミノ酸配列の29%が一致し、基本構造(12個の膜貫通領域)が似ている15)。全体としてみると、糖A送体は大きなファミリーを形成している。多様な遺伝子、分子種の存在は、糖の種類が多いこと、組織により輸送の方向、調節システム、輸送体の量が異なるなどの多様性を保証するためと思われる。


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 4.4 アミノ酸輸送体

 根で吸収された硝酸イオンは、根や葉でアミノ酸として固定され、その細胞で利用されるほか、各器官にも配送される。種子や塊根はアミノ酸を集積する器官といえる。一方、種子発芽時には貯蔵器官から他の器官へのアミノ酸の再分配が行われ、各細胞ではアミノ酸の取込みがみられるB糖とならびアミノ酸の輸送も生理学的に重要である。

 Hsuら16)はヒスチジン輸送能を欠く酵母変異株を用い、相補検定法*13を応用してシロイヌナズナのcDNAライブラリーからヒスチジンやアラニンの輸送体のcDNAを得た。この輸送体はアミノ酸486個で構成され、分子サイズ52.9kD、12の膜貫通ドメインが推定された。酵母でのアラニンノ対するKmは292μMで、単離した細胞質膜での実験結果と一致する。外液が酸性であるほど輸送活性は高く、イオノフォアでH+勾配を消失させると輸送機能も停止するなど、アミノ酸/H+共輸送体の性質を反映している。

 Frommerら17)も同様の手法でアミノ酸/H+共輸送体を単離している。これはプロリン、システイン、メチオニンなどを輸送するが、塩基性アミノ酸は輸送しない。したがって、アミノ酸輸送体には複数の分子種があり、各々機能分担していると考えられる。さらに器官特異的な発現も示唆されている。なお、いずれの実験も酵母で発現した酵素を観察しているので、これらの分子が植物の細胞質膜に局在していることを実証する必要がある。


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 4.5 Ca2+-ATPase

 動物細胞では2種類のCa2+-ATPaseが知られている。1つは細胞質膜Ca2+-ATPaseで、約140kD、カルモジュリンで活性化され、ATPあたりCa2+1つを輸送する。これに対しERと筋小胞体のCa2+-ATPaseは100-120kD、カルモジュリン非依存性、ATPあたりCa2+2つを輸送する。

 Ca2+-ATPase活性は細胞質膜とER膜に検出されている18)。しかし分子種と局在性の関係は必ずしも明確ではない。その1例をあげる。ニンジン培養細胞から単離された酵素は、分子サイズ120kD、カルモジュリン依存的に機•を発現し、バナジン酸に感受性である19)。これらの性質は動物の細胞質膜Ca2+-ATPaseと同じである。しかし、この酵素はER膜画分に局在し、ER膜の0.1%を占めると報告されている。一方、Wimmerら20)はトマトからER型Ca2+-ATPaseをクローニングし、一次構造を推定し(アミノ酸1048個、116kD)、カルモジュリン結合部位をもたないことを報告している。その転写量は、トマト実生を50mMのNaClを含む培地で生育させると2倍以上に増加する。NaClによる転写促進はタバコでもみられる21)。分子サイズや性質はさまざまで、種、細胞特異的な多様な分子種があるのかも知れない。

 細胞質膜、ERいずれのCa2+-ATPaseも、Ca2+に対するKmは約1mMであり22)、後述する液胞膜のCa2+/H+対向輸送体のKm(10-20mM)より小さい。したがって、細胞質Ca2+濃度を約150nMに微調整できるのは、液胞膜Ca2+/H+対向輸送体ではなく、細胞質膜とERのCa2+-ATPaseである。


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 4.6 細胞質膜Ca2+チャネル

 カルシウムは細胞機能を調節する最も重要なイオンで、種々の情報伝達の初期反応に関与している。細胞質Ca2+濃度は150nM前後に厳密に調節されている。細胞質膜とERのCa2+-ATPase、液胞膜のCa2+/H+対向輸送体が細胞質Ca2+の排除装置としてはたらき、細胞質へのCa2+の流入量はCa2+チャネルが支配している。細胞壁区画の遊離Ca2+濃度は約200mMである。特定の情報刺激に応じてチャネルが開き、細胞質Ca2+濃度を300-400nMに押し上げる。ERや液胞のCa2+プールから供給される場合もある。

 細胞質膜Ca2+チャネルは、膜電位依存性と電位非依存性の2つが知られている。電位依存性チャネルは静止状態(-120mV)では閉じており、細胞外K+濃度の上昇などで脱分極するとゲートが開きCa2+が細胞質に流入する23)。流入したCa2+によりゲートは再び閉じる仕組になっている。アの型のチャネルは、たとえばネムノキなどの接触応答性情報伝達に関与している。電位非依存性のCa2+チャネルは、孔辺細胞で検出されている。アブシジン酸により活性化される双方向性の透過孔である。いずれのチャネルもイオン選択性は低くBa2+、Mg2+なども透過させる。

 動物の電位依存性Ca2+チャネルは220kDの大きな分子であり、4回の繰返し配列構造で、それぞれは6つの膜貫通領域をもち、Na+チャネルとの相同性がきわめて高い。また、次に述べるK+チャネルのサイズはCa2+チャネルの4分の1であるが、両者の配列には相同性がある。多くのイオンチャネルは同一ファミリーであるとされている24)。しかし、植物ではCa2+チャネルの単離、cDNA解析の報告例はない。分子が大きく、量が少なく、単離標品の機能測定が容易でないなどの点が研究の障壁になっている。


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 4.7 K+チャネル

 動物細胞では、Na+/K+-ATPaseによりK+の取込みとNa+の細胞外への放出が同時に行われる。植物にはこの酵素はない。細胞質膜には電位感受性のK+チャネルが存在しK+の流入・放出を調節している。K+の移動による膜電位の変化は酵素活性を調節し、K+濃度の変化は膨圧調節に働いトいる。これまでに2種類のK+チャネルが見出されている。すなわち膜の過分極状態で作動する内向きのチャネル(K+の流入)と、脱分極状態で作動する外向きのチャネルである25)。

 気孔の開閉では、孔辺細胞でのK+イオンの流入(開)流出(閉)が細胞体積変化の主因である。孔辺細胞でのK+チャネルの機能調節は次のように説明されている26)27)。細胞質Ca2+濃度が上昇すると、プロテインホスファターゼが活性化され、未同定タンパク質の脱リン酸化を経て、K+ャ入に関与するK+チャネルを閉じる。逆にアニオンチャネルは開き、膨圧は減少する。その結果気孔は閉じる。


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 4.8 K+/H+共輸送体

 能動的なK+の輸送体としてK+/H+共輸送体が発見された。植物の根では、K+の吸収は主としてH+/K+共輸送体(Km、10-40mM)によることが知られている。Schachtmanらは、K+を欠く培地で育てたコムギの根のcDNAライブラリーをつくり、K+取込み機能を欠く酵母変異株への相補性cDNAを検索オてHKT1を得た28)。生化学的な解析にはRb+(K+類似イオン)を用い、Rb+に対するKm値29mM、300mMのRb+で飽和することを明らかにした。この分子は、K+がない場合はNa+を約30%の速度で運び込む。イオン選択性はK+>Cs+>Rb+>Na+の順であった。細胞外pHが低いほどイオンの取込み活性は高い。cDNAのコードするタンパク質は58.9kD、10-12個の膜貫通ドメインをもつと推定された。K+チャネルとK+/H+共輸送体は異なった細胞で機能しているようであるが、今後両者の機能特性、機能分担について解明されていくと考えられる。


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5.水チャネル

 5.1 液胞膜水チャネル ★

 植物の水チャネルの発見は分子生物学的アプローチの所産であった。種子貯蔵タンパク質の研究を進めていたChrispeelsのグループは、プロティンボディ膜の主要タンパク質(a-TIP)を解析してcDNAを得た69)。これをプローブとしてシロイヌナズナから、a、b、g-TIP(約28kD)の3つフクローンを得た70)。a-TIPは種子プロティンボディ膜に特異的に発現し、g-TIPは栄養組織に特異的に発現することが示された。さらにg-TIPのmRNAをアフリカツメガエルの卵母細胞に注入して発現させるとその細胞質膜に局在化し、水チャネル機能を発揮することが示された71)。g-TIPはグリセロールもイオンも透過しない。aとb-TIPには水チャネル機能がない。この研究は、g-TIPが動物の水チャネルCHIP28*17(赤血球膜72)、腎臓細胞質膜73))と一次構造が似ていることがヒントになった。水チャネルは動植物の区別なくアクアポリンとも呼ばれる74)。なお赤血球膜のCHIP28は4量体として存在し個々のサブユニットは独自に機能していることが示されている75)。

 g-TIPとは独立に、ダイコン液胞膜の高疎水性タンパク質(23kD、VM23)が単離されていた76)。VM23は多くの植物に分布し、液胞膜タンパク質の30-50%を占める。g-TIPとVM23はアミノ末端側配列が類似し、抗体反応性からも相同タンパク質と推定される。g-TIPは種子では発現しないニされているが、抗体で観察すると発芽期の子葉や胚乳でもVM23が合成蓄積されている51)。一方、プロティンボディ膜特異的なa-TIPは発芽期に消失していく。このことは、同一細胞で機能変化に応じて2種類のTIPが独立に発現していることを明示している。また、VM23の量が生理的に変動することも知られている49)50)。

 g-TIPはMIPファミリー*18に属し、構造中にAsp-Pro-Alaなどの共通モチーフが存在し、前半後半2つの繰返し構造となっている74)。液胞膜では4量体として存在していると推定される。水分子を識別するフィルターはイオンチャネルとどう違うのか興味がもたれるが水チャネルでもゲートの開閉がみられるのか、水の透過に方向性があるのかなど未知な点が多い。


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 5.2 液胞膜水チャネルの生理機能 ★

 生体膜は水に対する透過性が高く、タンパク質としての水チャネルは想定されていなかった。水の輸送は生体膜の単純拡散で十分とする考え方が強かった。また各種イオンがイオンチャネルを通過する際に水分子も移動するとの考えもある77)。水チャネルは驚きをもって迎えられた。ただし、細胞質膜に比べ液胞膜の水透過率が大きいことは、Tazawaらの研究によって知られていた78)。水チャネルの機能は具体的に検証さる必要があるが、現時点では次のように考えられる50)79)。

 (1) 動物に比べ植物の細胞は大きく、その大部分を液胞が占める。細胞増大にともなう急速な液胞増大には膜の合成と水の吸収が必要である。これは単純拡散ではまかなえず、水チャネルが必要となる。

 (2) 植物組織では、水の移動はアポプラス トとシンプラストの両面で見られる。シンプラストといえども、大きな液胞は細胞内での水移動の障壁となっている。もし液胞膜に無数の水チャネルがあれば、液胞は水移動の障壁ではなくなると考えられる。


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 5.3 細胞質膜水チャネル ★

 最近、細胞質膜にも水チャネルが存在することが見出された。シロイヌナズナに乾燥ストレスを与えると一群の遺伝子が発現する。Yamaguchi-Shinozakiらはその中の1つをRD28とした80)。RD28とTIPは構造が似ている。DanielらはRD28が水チャネルとして機能することをツメガエル卵母ラ胞の系で確認した81)。また、RD28がシロイヌナズナの栄養組織の細胞質膜に局在することを見出した。RD28はg-TIPと異なりSH試薬で処理しても水チャネル機能は抑制されない。RD28が全ての細胞で発現しているのか、g-TIPと同一細胞で同時に発現しているのかは不明である。

 水輸送、浸透圧調節、細胞生長、水ストレスなど、植物と水の関係をしめす知見が集積している。すでにシャジクモ類を対象に細胞質膜の水の透過率が具体的に測定されている78)。これらの結果と水チャネル分子を対応づける必要がある。花や葉の開閉にも水チャネルが関与していることを示すデータも出始めている。植物種の中には水チャネルをもつ種もあれば、もたないものもある46)。水チャネルの有無は、水の移動経路を発達させた植物、水ストレスにさらされない植物、水の移動を抑えて保水機能を発達させた植物など、植物の生態と生活史に対応したもののようにも考えられる。水チャネル分子を通して、植物体内の水の経路がこれまで以上に明確になるものと期待される。


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